脳神経内科

医師会報777号に当院の研究が掲載されました


パーキンソン病患者における、生活機能予後の悪化に関連する因子と治療介入効果の検討

国立病院機構西新潟中央病院
脳神経内科 長谷川有香、黒羽泰子、谷卓、松原奈絵、小池亮子


はじめに

我が国のパーキンソン病(Parkinson’s Disease;PD)の患者数は15~18万人と言われ、高齢化に伴い有病率が増加している。PDは、振戦・筋強剛・姿勢反射障害・動作緩慢を4徴とする運動障害性疾患として知られる。主な治療は薬物治療とリハビリテーションで、一部に手術療法が行われる。発症早期は薬剤が著効して社会生活を支障なく過ごせるが、約3年が経過すると、薬剤への不応やウェアリングオフ現象やジスキネジアなどの運動合併症が出現して進行期に移行する。独歩困難や寝たきりになるなど重症化して生活機能が高度に低下し、家族や社会の介護負担も大きい。1996年の調査では、平均発症年齢66±10歳、平均死亡時年齢77±7歳で、薬剤や治療の進歩により生命予後は延長した1)。現代の患者は罹病期間の延長に伴って生ずる運動合併症などに適切に対応し、進行期に、いかに自立したADLと高い生活の質を確保できるかが重要である。

近年、PDは新たな概念で捉えられ、中脳黒質を病変の主座とする運動障害症状は氷山の一角にすぎず、実は病変はもっと広範に及び、多彩な症状を呈するとされる2)。認知障害、うつや幻覚などの精神症状、治療抵抗性の疼痛や感覚障害、むずむず脚症候群やREM睡眠行動異常などの睡眠障害、消化器症状・起立性低血圧・排尿障害などの自律神経障害、嚥下障害、体重減少などがあり、これらは非運動症状と総称され、やはり生命予後や生活の質を低下させる重要な要因となる3)。

運動障害に非運動症状が加わり複雑化した現代におけるPD患者の自然歴を理解して、早期から長期治療計画を立案することが重要である。生活機能予後の悪化に関連する因子を明らかにして、適切な時期に、適切な内容の治療を提供できれば、生活機能予後の改善、ひいては介護負担の軽減にも寄与できると考える。


目的・方法

進行期PD患者に施行される、視床下核脳深部刺激療法(subthalamic deep brain stimulation ; STN-DBS)の術前後の臨床経過を評価し、影響する因子について検討した。

対象は、当院脳神経外科で2007年1月から2014年5月までに、PD患者に両側STN-DBSが行われた全106件のうち、術前後に脳神経内科で評価した42例(男:女=19:23、平均発症年齢50.1歳(12-64)、手術時年齢59.4歳(30-70)、手術までの期間9.2年(4-18))。術前と術後3ヵ月、1年毎に5年後まで、臨床経過は、運動障害の程度を Unified Parkinson’s disease rating scale(UPDRS)III(0~108点、症状無しが0点)を用い、L-dopa内服量(mg/日)、L-dopa換算量(mg/日)、認知機能を評価した。


結果
結果1 (図1)

全42例の術前評価の平均は、UPDRSIIIon 13点、off 26点とウェアリングオフ現象が明らかで、on時も運動障害をみとめた。L-dopa内服量は495mg/日、認知機能は保たれていた。術後3ヵ月はUPDRSIIIon6点、off9点で、onとoffの差が無くなり著明に改善し、L-dopaは約半分に減薬された。この後も効果は持続し、5年後に減弱の傾向がみられた。



結果2 (図2)

手術時年齢を60歳未満と60歳以上の2群に分けて比較した。60歳未満群では、術後全てにおいて著明に改善し、5年後も運動機能が大きく改善した状態が維持され、減薬効果も持続した。認知機能の低下は無かった。一方、60歳以上群では、術後ウェアリングオフ現象は消失したが、5年後の運動機能はUPDRSIIIon18点と術前12点より悪かった。減薬効果はあるが若年群と比べ小さく、5年後にはL-dopa量が術前と同程度に戻り、L-dopa換算量に占める割合が大きくなった。認知機能低下の傾向も見られた。



考察

STN-DBSの、PD患者の主要運動症状と運動合併症に対する有効性は確立し、術後長期評価の報告が増えている。術後5年では運動機能やADLの改善が持続し4)5)、術後10年でも刺激療法の運動機能への効果はなお持続する6)7)が、認知機能などの非運動症状の一部が悪化した7) と報告された。若年や発症から手術までの期間が短い方が術後予後が良いとの報告もある5)8)。

本研究においても、若年でSTN-DBSを受けた群では、術後5年でも運動合併症の消失、運動機能の改善と減薬における顕著な効果が持続し、手術の恩恵をより長期間に渡って受けられることが期待される。それに比べて手術時年齢が上がると、術後5年でも運動合併症は消失するが、運動機能は術前と同程度に戻り、L-dopa主体に内服量が増えた。手術はPDの進行を抑制するものではない。経過に伴って、本来刺激療法の有効性を期待し難い運動症状であるすくみや姿勢反射障害は悪化すること、認知機能低下や幻覚などの精神症状が出現してドーパミン受容体刺激薬の使用が困難な例が増えることが原因にあげられる。加齢やPDの病態そのものの進行の影響を強く受けていると考えられる。

今後は、DBS非施行例を含めたPD患者において、運動機能のみならず、認知機能、精神症状、睡眠障害や自律神経障害などの非運動症状や嚥下障害など多岐にわたる各々の症状を、発症早期から追跡して分析することが重要と考える。また、リハビリテーションなど他の治療介入の効果との関連についても検討したい。生活機能を悪化させる因子を把握して早期から介入し、発症早期から包括的な長期治療計画の元、患者がより良い生活機能をより長く維持できるように還元したい。


謝辞

本研究に対して平成26年度新潟県医師会学術研究助成金を賜り、この場をお借りして感謝申し上げます。


文献
  • 1)中島健二、楠見公義、鞁嶋美佳ら: 晩期パーキンソン病の死因解析.神経内科2002; 56(5): 413-418.
  • 2)Langston JW: The Parkinson’s complex: Parkinsonism is just the tip of the iceberg. Ann Neurol 2006; 59(4): 591-6.
  • 3)Barone P, Antonini A, Colosimo Colosimo C, et al: The PRIAMO study group: A multicenter assessment of nonmotor symptoms and their impact on quality of life in Parkinson’s disease. Mov Disord 2009; 24(11): 1641-9.
  • 4)Krack P, Batir A, Van Blercom N, et al: Five-year follow-up of bilateral stimulation of the subthalamic nucleus in advanced Parkinson’s disease. N Engl J Med 2003; 349: 1925-34.
  • 5)Shalash A, Alexoudi A, Knudsen K, et al: The impact of age and disease duration on the long term outcome of neurostimulation of the subthalamic nucleus. Parkinsonism and Related Disorders 2014; 20: 47-52.
  • 6)Castrioto A, Lozano AM, Poon YY, et al: Ten-year outcome of subthalamic stimulation in Parkinson disease. Arch Neurol 2011; 68: 1550-1556.
  • 7)Rizzone MG, Fasano A, Daniele A, et al: Long-term outcome of subthalamic nucleus DBS in Parkinson’s disease: From the advanced phase towards the late stage of the disease? Parkinsonism and Related Disorders 2014; 20: 376-381.
  • 8)Welter ML, Houeto JL, Tezenas du Montcel, et al: Clinical predictive factors of subthalamic stimulation in Parkinson’s disease. Brain 2002; 125: 575-583.