放射線科

放射線治療成績

肺がんの照射野例(小細胞がんを除く)

根治照射; 肺がんIII期が放射線療法のよい適応です。
(大きな肺がんと肺内の遠い部位すなわち縦隔や鎖骨上窩リンパ節までリンパ節転移があるが、ひとつの部位にまとまってある。すなわちひとつの治療単位で照射野が設定できる場合)

  • 放射線をあてる領域を照射野といいます。
  • II期の最新型治療装置と通常型照射装置との生存率の差は現時点では証明されていません。
  • II期は実はさまざまな大きさがあります。かなり小さくともIII期の場合もあり、手術後に縦隔リンパ節転移があってIII期になる場合もあります。あるいはIII期でも病巣が小さい場合(IIIa期)は積極的に手術に行く場合もあります。しかし大きなIII期は照射の適応となります

根治照射と姑息照射

  • 根治照射 がんの根治を目指す。
    肺がんIII期がよい適応です。
    • 病変が照射野にすべて含まれる場合
    • 比較的多い線量を使う。2Gyで30回~33回が用いられることが多い。化学療法併用が原則です。
  • 姑息照射
    おおむねIV期に適応します。
    • 病変が多数あり(遠隔転移など)、かなりのがん細胞が全身にある場合。
    • 延命や苦痛緩和のため。放射線の副作用が出ないように少ない線量で小さい照射野で治療します。
    • よく用いるのは3Gyで10回などとなります。

※根治とは根本的に治療する、姑息は文字通り姑息的に今の苦痛をとりのぞく目的のものです 根治照射はかつては70Gyまでのことが多かったのですが、60Gyとの比較で生存率がよくないか同等との発表があったため 60Gyが採択されてます。化学療法を使用しない場合は66Gy程度が選択されます。

放射線治療の生存率

  • 放射線単独での肺がんIII病期(非小細胞肺癌の場合)は、30年前の2年生存率は10%程度と予後の悪いものでした。
  • 最近は 化学療法の進歩により化学療法と併用した場合、非常によい成績の施設で、III病期で2年生存率は化学療法併用例で5割程度、5年生存率は10%強~20%弱の報告が多いようです。
  • 照射単独例でも画像診断の進歩や全身管理術の向上で成績は改善しています。

当院における放射線治療成績

自施設としての通常型治療装置での成績をまとめました。15年9月までのHPの記載は、根治線量を60Gy以上であったが、他施設の発表と同様に50Gy以上に変更し、集計 しなおしています。 (実際は根治照射で60Gy未満が少なかったため生存率に差は出ていません) 現在の当院の肺癌診療は全般的に他施設同様のレベルにはありそうです。 新型装置導入後、この成績を比較する予定です。

当院の2003年4月~2014年8月実績

原発箇所
542名
肺以外
59名
新患登録数(計)
601名
※原発 最初にがんの出た場所のことです。

根治は化学療法なし照射単独も含んでいます。50Gy以上症例が多いですが、計画時に総線量を決めるため中断等で線量の著しく低い症例も含みます。実際はIII期腺癌はすべて60Gy以上、扁平上皮IIIで50Gy以下は7人。I期で50Gy以下が2人います。 新患患者の内訳です。根治照射と遠隔転移が半々です。 その他の23名は術後病理で断端プラスに照射した例や、化学療法単独後の再発などがはいっています。

肺がんと診断された症例の組織診断
扁平上皮癌
175例
腺癌
212例
小細胞癌
69例
大細胞癌
6例
その他(肺がんだが組織分類できない)
30例
組織無し不明(臨床診断のみ)
50例

肺がんの診断は癌の疑われる部分の組織片や喀痰で病理的に決定されますが、情報量が少ないと組織まで決定できない場合もあります。 それぞれに応じ以下のようになっています。

  • 非小細胞癌:小細胞癌ではない肺癌であることが病理的に判明。
  • その他:病理的に肺癌であるが、組織型を決定できなかった。
  • 不明:画像や血液データで臨床的に肺癌であることは確実と診断されても、病理的に証明されずに治療にはいった方が含まれます。 全身状態が悪く 充分な検査が行われる前に、ただちに治療した方も当院では多いです。

初回治療部位

※緑部分は初回放射線診察に来診したが、その時点では放射線治療を選択しなかった症例です。

タバコに関係する扁平上皮癌は、あまり遠隔転移がありません。腺癌はかなり骨や脳に転移しますが、化学療法が比較的効きます。 小細胞癌はほとんど重症喫煙患者のみですが、全身に転移しやすいため、かならず化学療法が必要でかなり有効なことが多いといわれております。当院データでもそれらの性質を色濃く反映した結果となっています。

初回肺に放射線治療を施行した症例の病期
病期 扁平上皮癌腺癌小細胞癌
I期
21
17
2
II期
13
5
1
III期
66
32
18
IV期
18
17
10
不明
1
1
0
総数
119
73
31

当然ですが、III期が多く、I期も予想外に多かったです。当院の現行の機種は精密照射野や、ガンマナイフやノバリスなどの小焦点照射はできないので、それらの適応症例は適切な施設に紹介しています。I期でも相対的に大きいか、中枢側にあったものが多いとおもわれます。

当院の内科担当医は、新潟大学との肺癌化学療法の共同班に属し、腺癌、小細胞癌のおおむね75歳以下の元気な患者は大学へ紹介しておりますので、本来は腺癌は扁平上皮癌程度おられるのですが、相対的にすくないです。したがって高齢者と活動結核や他のなんらかの合併症のある人が多いです。

扁平上皮III期化学療法あり黒線19人、なし赤線33人、 黒線の化学療法ありの生存中央値は717日(2年)。2生存率は44%、化学療法なしは赤線、緑線は全体平均で2生存率は27%。過去の大規模研究では逐次法では化学療法は効果なしといわれているようですが、当院の結果では扁平上皮癌でもやはり化学療法はやったほうがいいように見えます。

腺癌III期は化学療法あり13黒線、なし赤線10人の比較です。黒線の化学療法併用群ではよい生存率です。生存中央値1097日(約3年)2年生存で50%程度と他施設とそん色なく見えます。しかし5生率は近年の諸施設報告の15-20%にはおよばず。10%弱です。 緑線の全体2生率は36%ほど。症例はすくないですが、緒家の報告どうり化学療法併用は有効なようです。

15人です。全員化学療法併用です。中央値は501日、2年と5年生存率は39%

ピンポイント照射でかなり他院へ紹介しておりますが その適応外症例ですので、言われているほどよくはありません。腺癌2年生存率70%、扁平上皮癌25%。 特にI期でも扁平上皮癌青線はよくありません。容易に転移する中枢発生がピンポイントの適応外なためで、その形態のものが集まったためと思われます。 III期の平均27%ですのでそれとたいして変わりません。

当院治療患者の生存率

過去10年の成績は症例数はすくないが、
  • 腺癌III期
    化学療法ありの生存中央値1097日(約3年)、2年生存率50%
    全例平均で2年生存率36%、5年生存率は化学療法あり12%、なし9%
  • 扁平上皮癌III期
    化学療法ありの生存中央値717日(約2年)、2年生存率44%
    全例平均で2年生存率27%、5年生存率は化学療法あり8%、なし3%
2年生存率は他施設報告に比し、さほど遜色なく見える。 5年生存率はよい成績の報告では腺癌化学療法併用で15-20%といわれてるようであるが、 当院は10%程度と悪い印象である。この原因は前述のごとく、若年者を新潟大学へ紹介しており、母集団が高齢者を非常に多く含んでいるためと考えます。