てんかんの外科治療Q&A -2-

 Q:てんかんの手術はいつ頃から始まったのですか?

A:てんかん患者の脳切除に最初に成功したのはロンドンのホースレイという医者で1886年のことです.彼は英国最初の脳神経外科専門医であり,後に貴族の称号をもらっています.彼の手術は脳神経外科の幕開けを告げるものでした.てんかんの手術が脳神経外科の最初であったことは驚くべきことで,すばらしいことであると思います.脳波が発見されたのは,てんかんの手術の始まりよりずっと遅く1929年のことです.それまではてんかんの診断は脳波なしで行われていたわけです.脳波なしではてんかんの診断が不可能と思える現代とは大きな違いです.

さて,日本を見てみましょう.1902年京都大学外科教授の伊藤隼三がてんかんを含む40例の手術について報告しています.それ以後は散発的に脳外科的手術が行われたようですが,日本にはまだ脳神経外科という診療科もなく外科が片手間にやっていたような状況でした.1940年頃から,新潟医科大学(新潟大学医学部の前身)の中田瑞穂教授が米国流の脳神経外科手術を行い,てんかんの治療として前頭葉切除術や大脳半球切除術という手術を初めて行っています(手術の方法に関してはQ34で詳しく述べてあります).この頃,新潟医科大学病院外科の病室は全国から集まるてんかん患者がいっぱいだったといいます.中田瑞穂は後年脳神経外科開拓の功労者として文化功労賞を授与されています.1948年第1回日本脳神経外科研究会が新潟で初めて開催され,1965年に なってようやく脳神経外科の診療科が認められることになりました.前に述べたように脳神経外科はてんかんの手術に始まりましたが,戦後の交通事故の増加や脳卒中の増加により命を助けることを優先したために脳外科医はその治療に没頭して,てんかんの外科治療から遠ざかってしまいました.

日本ではてんかんの外科治療が一時まったく行われなくなりましたが,カナダのモントリオール神経学研究所をはじめ北米では綿々と続けられました.そして,てんかんの外科治療を行うものにとってもう一人忘れてはならないのがペンフィールドという脳神経外科医です.この頃は局所麻酔で手術が行われていましたから,彼はてんかんの手術を行いながら,脳の表面をこまかく電気で刺激してそれによる反応を見ながら脳表面(すなわち皮質)の機能を調べ,脳の機能地図を作りました.それを1950年に発表しました.この地図はどの教科書にも必ず載っています.私たちはこの機能地図を自分の患者の機能地図を作るときの参考にしています.

1982年磁気共鳴画像装置(MRI)が登場し,脳のこまかい構造の異常を診断できるようになると,てんかんの原因を正確に診断でき,手術が正確にできるようになったため,てんかんの外科治療が再び見直され,各国で行われるようになりました.北米では年間1000例を越えるてんかんの手術が行われているそうです.MRIの登場以前から脳外科手術は顕微鏡手術が主流となっていました.MRIと顕微鏡手術が新しいてんかんの外科治療の原動力となったのは誰もが認めるところです.その後もコンピュータの発達が次々と新しい診断装置を登場させました.患者の発作の様子とその時の脳波をビデオに同時記録できる装置が普及しました.これによりてんかんの分類が容易になりました.手術を行って硬膜下電極を留置する方法も進歩しました.長時間の硬膜下記録を行うことによりてんかん焦点の場所を正しく診断できるようになったため,手術により正確にその部分を切り取ることができるようになり,てんかんの外科治療はさらに進んだのです.

1989年にはモレルというてんかん専門医が軟膜下皮質多切術という新しい手術の方法を発表しました.これまでは,焦点が運動野や言語野にあると手術の方法がまったくなかったのですが,この手術法の登場により,機能的に重要な場所に対しても積極的にてんかんの手術が行われるようになりました.

今後もてんかん外科医は後遺症を出さずに発作を止める可能性を追求して,手術の技術を学び,いろいろの工夫を行っていかなければならないと思っています.

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