1998年11月6日
【症 例】57歳,女性,主婦
【主 訴】咳嗽,たんがらみ,胸部異常陰影を指摘された.
【既往歴】40歳台;肝炎で黄疸をきたし入院.
54歳台;後腹膜線維症.ステロイド治療を行っている.中等量から始め,現在PSL5mg/3days内服中.
【家族歴】特記すべきことなし
【吸入歴】なし
【喫煙歴】30歳〜現在まで20本/day
【現病歴】54歳時,macrohematuriaとback painが出現し,某病院泌尿器科に入院した.開腹手術による組織診断で後腹膜線維症と診断され,ステロイド治療を受け,漸減し,PSL5mg/3days内服中で自覚症状は消失していたが,57歳春より,痰が絡み咳がでるようになったため,7月,同院呼吸器科を受診した.胸部CT検査で,間質性肺炎様陰影と結節影を指摘され,当院での精査を勧められ,7月下旬,B病院初診し,8月上旬入院した.喀痰は少量で透明.これまでに喘鳴の出現はない.発熱はない.薬剤服用はPSLのみ.
【身体所見】身長150cm,体重44.5kg,血圧120/84,脈拍86bpm reg,
心音 清,肺 ラ音なし,腹部 手術痕,皮膚 人中部にeczema様皮疹,皮膚硬化なし,リンパ節腫大なし,甲状腺腫大なし,骨関節異常なし,神経筋異常なし.
【入院時検査所見】
(末梢血)WBC 7110(Neu46.5,Lym47.5,Eo2.3),RBC433万,Hb14.1,Plt22.1万
(生化学)
T.P.6.3(alb63.6%,γ10.7%),GOT16,GPT12,γ-GTP22, LDH310,CK41,ALP388,TBil0.42,BUN14,Cre0.5,Na140,K4.2,Cl106,BS99,HbA1c6.5%,
(血沈)ESR31-55
(尿)尿蛋白(±),潜血(-),糖(-),沈渣異常なし
(免疫学的検査)
CRP0.1,IgG841,IgA135,IgM70,IgE97,C3 74,C4 36,ANA0.1,RF5.0,抗RNP抗体(-),抗DNA抗体(-),抗Sm抗体(-),抗SS-A抗体(-),抗SS-B抗体(-),抗Scl-70抗体(-),p-ANCA(-),マイクロゾームテスト<100,サイロイドテスト<100
(IgE RAST)マルチアレルゲン陰性,ハウスダスト1,2(±),ヤケヒョウダニ(±)
(75gOGTT)93-184-240-174-146
(感染症)HCV抗体1.6倍,HCV-RNA<1,HBsAg(-),HIV抗体(-)
(内分泌)TSH0.975,FT4 1.16
(腫瘍マーカー)CEA7.6,CA19-9 <2.0
(動脈血ガス分析)室内気吸入下 pH7.404,paCO2 46.4,paO2 62.5,HCO3 28.7
(PPD)強陽性
(心電図)正常
(喀痰細菌学的検査)Gaffky 0号,Haemophilus spp.
(喀痰細胞診)No malignancy,好酸球,化生扁平上皮細胞
(呼吸機能検査)VC 2.21(92.1%),FEV1.0 1.30(60.7%),Vdot50/Vdot25 3.29,TLC4.06(107.4%),RV1.85,RV/TLC 45.6%,DLCO/VA 3.55,%DLCO76.7%,
改善率1.8%
(BAL)8/11施行,右中葉,61/150(41%),CC 0.98x105/ml,AM92%,Neu0.4%,Ly3.4%,Eo4.2%,CD4/CD8=1.08,HLA-DR 55.9%
(胸部レントゲン写真)
正常
(胸部CT写真)


Fig.1:胸膜下にわずかの,ground-glass opacityとreticular shadowを認める.左下葉には胸膜下結節影があり,周囲には右と同様のground-glass opacityとreticular shadowを認める.結節影は,右の肺の胸膜下にも数個みられる.
(腹部CT写真)異常所見なし.
(Gaシンチ)両側肺と腹部大動脈周囲に異常なuptakeあり.
【臨床経過】
臨床的には,夜間と朝方に強い咳嗽が続き,呼吸機能上,気道病変の存在が疑われた.また,喀痰細胞診とBALの所見上,cough variant asyhmaやatopic coughなどの,気管支喘息様の病態が疑われたため,テオフィリン製剤とアゼプチンを開始し,β2刺激薬の吸入を頓用で用いたところ,咳嗽は軽快傾向を示した.
両側の間質性肺炎様陰影と胸膜下の結節影は,前病院のCTと変化がみられなかったが,確定診断を得るため,VATSを選択した.
1998年9月7日,当院胸部外科に転科した.手術予定日の2日前に,ビソルボンの吸入を行ったところ,気管支喘息の中発作を起こした.(喘鳴を聴取する発作ははじめてである)ネオフィリンとステロイド剤の点滴により改善し,9月9日より,吸入ステロイド剤を併用(BDP300μg/day)した.PEFRは,220L/minから,320L/minに改善したため,VATSは,9月16日に施行した.全身麻酔導入時及び抜管時,喘息発作を起こしたが,その後は経過良好で9月28日退院した.気管支喘息のcontrolもほぼ良好である.11月2日外来受診時の胸部CT所見は,ほぼ不変である.
【病理所見】

Fig.2:マクロ所見左の胸膜下結節部,肺内リンパ節.周囲は胸膜下に線維化巣が見られ,リンパ球の集簇巣を散見する.
Fig.3:肺内リンパ節は,germinal centerをもつリンパ濾胞の過形成よりなる.

Fig.4:胸膜下線維化巣は,小さな蜂窩肺よりなり,線維化巣内や,細気管支周囲にリンパ濾胞をみる.

Fig.5:肺胞隔壁は,リンパ球浸潤を伴ってedemato-fibrousに肥厚し,気腔内にはblue bodyを含んだ,多核のmacrophageをみる.

Fig.6:小型のhyalinizing granuloma様の所見.硝子化した線維化巣の周囲にリンパ球浸潤がみられる.
【病理レポート】
<macroscopic findings>
提出された検体は,VATSによって採取された,左肺下葉と,左肺上葉舌区領域です.いずれも胸膜の癒着はありません.下葉より採取された検体は,4x3x2cm大で,ICGによるmarking部位を含み,胸膜下に黒褐色の結節を触れます.割面では,黒褐色の結節は,肺内リンパ節と思われ,周囲の胸膜下には線維化がみられます.
舌区より採取された検体は,6x5x4cm大で,ほぼ正常の外観を呈しています.割面は,胸膜下を中心とした一部に線維化を認める他は,ほぼ正常です.
<Microscopic findings>
下葉の結節部は,肺内リンパ節です.胚中心を有するリンパ濾胞が過形成しており,周囲にはanthoracosisを含んでいます.また,傍皮質領域には一部で,好酸球が集簇しているところを認めます.このリンパ節は,正常リンパ節の形態を保っており,反応性のリンパ組織の過形成と考えます.
肺内リンパ節以外の肺組織の所見は,上葉と下葉ともに類似しており,以下はまとめて記載します.
病変の分布は,線維化を伴った病変が胸膜下に強い傾向があります.その他,肺動脈,細気管支周囲,小葉間間質にリンパ球の集簇巣がみられ,lymphatic pathwayも病変の場として目立ちます.病変はpatchyな分布を示し,正常肺組織もみられます.
胸膜は,ほぼ正常と思われますが,所々にリンパ球の集簇巣をみます.
胸膜下には,小さなhoneycombingを形成した線維化巣をみます.UIP patternに類似しますが,線維化をきたした間質に,多くのリンパ球と少数の形質細胞浸潤が目立ち,気道の周囲の間質には好酸球の浸潤する部位もあります.honeycombingを呈さず,比較的病変の軽い領域では,浮腫性に肥厚した肺胞隔壁にリンパ球を主体とした細胞浸潤がみられ,II型肺胞上皮の過形成を伴っているところがあり,細胞性の胞隔炎の所見です.そのほか,ほぼ正常肺組織が隣接します.気腔内には,多核のマクロファージが目立ち,blue bodyと思われる青褐色の物質を細胞質内に含みます.また,その物質は石灰化をきたしているものもあります.この所見は,種々のびまん性肺疾患で,ときどき認められる所見で,非特異的所見とされますが,本症例では特に目立ちます.
気腔内の滲出性病変や,器質化病変は目立ちません.
また,膠原線維による線維化巣も斑状に散見され,内部および周囲にはリンパ球の浸潤を伴っています.大きさが小さく,microscopicな所見ですが,hyalinizing granulomaに類似する組織像です.
肺動脈,細気管支,小葉間間質に接してリンパ球の集簇巣,リンパ濾胞がみられます.一部は,細気管支壁に接してリンパ濾胞がみられ,follicular bronchiolitisの所見を呈しています.細気管支は,内腔の狭窄,好酸球を含む粘液栓,粘膜内の好酸球浸潤,上皮の杯細胞過形成,上皮の剥脱などの気管支喘息の所見がみられますが,間質にみられた肺胞領域の病変とは,二元的に考えられます.
【Pathological Diagnosis】
1)Interstitial pneumonia , prominent of lymphoid aggregation.
2)Intra-pulmonary lymph node.
3)Follicular bronchiolitis like lesion.
4)Hyalinizing granuloma like lesion.
5)Bronchial asthma.
【Discussion】
後腹膜線維症に合併する胸郭内病変としては,Mediastinal
fibrosisとHyalinizing
granulomaが知られている.この症例は,多彩な病理所見を呈している.間質性肺炎様の所見の合併はほとんど記載されておらず,稀な病態であると考えられる.リンパ節部位の免疫グロブリン遺伝子再構成を検討したが,rearrangementは認めなかった.