第14回新潟びまん性肺疾患検討会
1998年11月6日
症例2:肺にびまん性の石灰化陰影を呈したChickenPox
Pneumoniaの一例
・症例:35歳、男性
・職業:専門学校講師 ・既往歴:30歳(H6.6)水痘 ・家族歴:特記事項なし ・喫煙歴:18歳から40-60本/日 ・環境:コンクリート家屋住、ネコ・ウサギ飼育
・主訴:咳嗽、喀痰、発熱
・現病歴:H9.12.中旬より咳嗽、喀痰を認め、H10.1.19.近医受診。肺炎として、抗生剤点滴静注を受けたが改善せず、H10.2.5.A病院内科初診。発熱、咳嗽、白色痰を認めた。胸部X-P、胸部CTにて両肺びまん性粒状影を指摘された。H10.2.12.咳嗽、喀痰が持続、胸部CT上石灰化陰影が疑われ、鑑別診断のため、VATS下肺生検を考慮し、A病院呼外科へ紹介となった。(H9.2.18同科入院。H9.2.19:
VATS下肺生検施行)
・現症:BL 170.9 cm、BW 73.3 Kg、BT 39.0℃、PR 66 bpm、BP 120/80
mmHg、結膜貧血黄疸なし、胸腹部聴打診:異常なし、四肢浮腫なし、
検査成績:血沈 2/5, ツ反 20 mm、検血 WBC7900 ( Seg 79.0, Eos 1.0, Lym
14.0, Mo 6.0 ),RBC 530万, Hb 16.8, Plt 31.9 血清検査 ASO 13, CRP
2.8, CHA x80, マイコプラズマ抗体 x80、生化学検査 TP 7.0, 分画(Alb
66.9, α1G 2.3, α2 G9.9, βG 8.8, γG 12.1),GOT 33, GPT 107, LDH
289, LAP 136, ALP233, T.bil 0.5,γGTP 305, Ch-E 190, TC 218, Na 142,
K 4.2, Cl 106、検尿 蛋白(-), 糖(-),
水痘抗体:Ig G 40.5(+), Ig M <0.80(-),
腫瘍マーカー :CEA<1.0, SCC 0.8, NSE 4.3
喀痰培養:H.parainfluenzae(2+), tbc塗抹培養(-)
動脈血ガス:PH 7.479, PCO2 30.9, PO2 97.0,HCO3- 22.4, BE 01, A-a
DO2 13.4
呼吸機能:VC 4.6 L, %VC 113.9, FEV1.0 3.42 L, FEV1.0/FVC 75.8,
%FEV1.0 96.7, %DLCO 75.2, DLCO/VA 76.6
<画像所見>
両側上肺野に気腫状変化がみられる(CT-a)。また、両側中下肺野の背側よりを中心に大小不同のある小結節・粒状影が多発しており(CT-b〜d)、HRCTではこれらの一部には明かな石灰化を伴っているものが認められた(HRCT-a〜d)。
CT-a:両側上肺野の気腫状変化 CT-b:両側中下肺野の粒状影


CT-c:両側中下肺野の粒状影 CT-d:両側中下肺野の粒状影


HRCT-a:粒状影のHRCT像(肺野条件) HRCT-b:粒状影のHRCT像(肺野条件)


HRCT-c:HRCT-aと同一画像(縦隔条件) HRCT-d:HRCT-bと同一画像(縦隔条件)


<病理所見>

Fig.1:肺内には石灰化に陥りつつある結節を散見する.その分布は,一部lymphatic
pathwayにそった部にみられるが,特定の肺構造に一致しない分布を示すところもある.

Fig.2:中心部は凝固壊死に陥っており,石灰化を伴っていないものもある.周囲はepithelioid
granulomaがみられ,その周囲は層状に線維化をきたしている.また,リンパ球浸潤を散見する.

Fig.3:結節のEVG染色.凝固壊死に陥った中心部は,肺構造のelastic
fiberが残存し,肺結核の乾酪壊死でみるような融解はみられない.
【Macroscopic findings】
VATSにより採取された標本を検討しました.標本は全部で4切片ありますが,いずれも同様の所見です.
標本の大きさは.3x1cm大までで,石灰化を伴う直径2mmまでの円形の結節が数個みられます.
【Microscopic findings】
結節性病変の他に,線維化をきたした病変が散見されますが,いずれも同様病変のレベルの違う部位をみている可能性が高いと思われます.
病変の分布は,おそらく,random
distributionと思われます.すなわち,肺のいろいろな領域(肺胞領域や,血管周囲,小葉間間質など)にみられ,血行性散布などでみられる所見です.(Lymphatic
pathwayの分布を否定し切れませんが)
結節の中心部は,necrosisに陥っており,その中には.Elastic
fiberよりなる肺の骨格や,血管の構造が残ってみられます.壊死物質は,やや粗いgranularな構造を呈しているものや,石灰化がみられるもの,膠原線維に置き換わりつつあるものなど多彩です.肺の骨格構造が保たれていることから,滲出性病変が,融解をきたさないまま壊死に陥り,石灰化や線維化をきたしていく病変と思われます.グラム染色・抗酸菌染色・Grocott染色もおこなっていますが,一般細菌,抗酸菌,真菌は陰性です.壊死巣の周囲には,褐色の物質(ヘモジデリンか)を貪食したhistiocytesがみられたり,膠原線維よりなる線維化がみられたりしますが,そのまわりを類上皮細胞が囲み,少数ながら多核巨細胞を伴っているところがあります.また,lamellarに膠原線維が囲み,リンパ球の集簇および浸潤を伴っています.その周囲の肺胞領域は,褐色の物質を貪食したマクロファージが目立ちます.ヘモジデリンにしては,繊細であり,smokerにみられるマクロファージの可能性があります.また,気腔内に出血をみますが,出血は,採取時のartifactの可能性があります.
その他の領域では,明らかな異常は見られません.急性期のウイルス感染症でみられるような細胞内封入体もみられません.血管炎の所見もみられません.
病理診断は,granulomatous disease with
necrosisとなります.
granulomatous disease with
necrosisをきたす疾患としては,Mycobacterial infection, Actinomycosis,
Nocardiosis, Fungal infection, Aspiration
pneumoniaなどの感染性疾患の他,血管炎症候群,壊死性サルコイドーシスなどが知られていますが,本症例ではいずれの確証もありません.
Varicella-Zoster
pneumoniaの後に,石灰化を伴う小さなgranulomaの形成が報告されており,病理的にも矛盾しないと思われますが,経験がありません.特に鑑別を要する疾患としては,Mycobacterial
infectionであると思います.
<Discussion>
<びまん性の石灰化影を呈する疾患>
・Infection:Histoplasmosis, Tuberculosis, Chickenpox pneumonia
・Inhalational disease:Silicosis
・Miscellaneous:Hypercalcemia, Mitral stenosis, Alveolar
microlithiasis, Amyloidosis, metastatic neoplasma
<chickenpox pneumoniaの特徴>
呼吸困難、咳嗽、発熱が主症状。成人水痘患者の約15%に発症。肺病変に先立ち、skin
rashを認める。胸部写真上びまん性結節性浸潤影。死亡率10~30%、免疫抑制者・妊婦で高死亡。
石灰化陰影は患者の約1.7%に認める。
病変は、気管支周囲の出血・壊死巣多発、血行性散布を示唆する肺実質の粟粒性病巣。炎症のより強い部位では、線維化に到り、乾酪壊死から石灰化に到る。石灰化は2〜7年の間隔をおいて出現する。