はじめに
従来の人工呼吸は気管内に,チューブを挿入し,これに人工呼吸器をつなぐことで行われてきました.この方法は,気道の確保は確実で,効果も確実ですが,患者さんに加わる負担が大きいため侵襲的な人工換気と呼ばれています.1980年代後半より,この侵襲的陽圧換気法に加えて,鼻ないしは顔マスクを使用した陽圧換気法が開発されました.より患者さんに負担がかからないという意味で,非侵襲的陽圧換気法(non-invasive positive pressure ventilation;NIPPVまたはNPPV)と呼ばれます.NIPPVは,侵襲的陽圧換気法に変わるものではありませんが,適応する患者さんであれば,より受け入れやすく効果のある補助換気法といえます.
歴史
1980年代前半には,上気道の閉塞による睡眠時無呼吸症候群の患者さんに鼻マスク連続陽圧呼吸(nasal CPAP)という方法が有効であることが報告されました.この方法は一定の圧を気道にかけることによって,気道が閉塞するのを防ぐことで無呼吸を減らします.これを応用して吸気に強い圧を加え,呼気に弱い圧を加えたら,(これをBi-levelの換気といいます)換気が不十分な患者さんの呼吸を補助することができるであろうというのが開発のコンセプトでした.その後,マスクの改良や換気機器の改良が行われ,患者さんにとってはより快適に使用できるようなりました.現在は保険診療にも収載され,病院内にとどまらず在宅で使用している患者さんが増えています.
対象になる患者さん
高二酸化炭素血症を伴う呼吸不全(II型呼吸不全)の患者さんが対象になります.一般に,換気が少なくなると二酸化炭素が蓄積しますが,このような方に換気を補助することで二酸化炭素を下げることが可能になります.神経筋疾患ではPaCO2が,50〜60Torrで,結核後遺症などではPaCO2が60〜70Torr位を目安に導入します.
対象疾患
- 神経筋疾患:筋ジストロフィー,筋萎縮性側索硬化症,脳幹・脊髄・横隔神経の障害など
- 中枢神経:原発性肺胞低換気
- 呼吸器疾患:肺結核後遺症,COPDなど
- 胸郭変形性拘束性障害:脊椎側彎症など
また,この人工呼吸器を使い始めるタイミングとして,慢性の経過の中でII型呼吸不全が進行した場合に導入する場合と,慢性呼吸不全の急性増悪時に導入する場合がありますが,後者は病状が改善すれば呼吸器から離脱することが可能です.
NIPPVの優れた点
- 気管内挿管が不用である.
- 非侵襲的である.
- 意識レベルを下げなくとも使用可能.
- 会話が可能.安価で簡便.
- 自分でマスクの着脱が可能.
- 長期在宅人工呼吸器療法が可能
NIPPVの問題点
- 気管内挿管による侵襲的陽圧換気法に比し効果が不確実.
- 気道分泌が多い人には向かない.
- 肺の伸びの悪い人(たとえば間質性肺炎など)には向かない.
- マスクの装着感をいやがる人がいる.
- マスクによる圧迫で皮膚に傷をつくることがある.
- 目が乾燥する人がいる.
- 患者さんの協力が必要
実際の使用の仕方.
1.吸気圧,呼気圧,補助換気の仕方(自発呼吸に合わせるのか,呼吸器に設定したリズムにするのかなど),酸素を併用するならばその流量などを医師の指示で決定します.
2.鼻マスクないしは顔マスクをフィットさせベルトで固定します.
3.呼吸補助を開始します.
4.使用時間は,患者さんの状態により異なりますが,夜間のみ使用する場合が多いです.
効果
- 多くの場合,動脈血二酸化炭素濃度が低下することが知られています.
- 自覚症状(頭痛,精神活動の低下など)の改善も得られます.