1.癌とは何か?
2.肺癌とは何か?
3.肺癌の症状
4.肺癌の種類
5.肺癌の診断
6.肺癌の病期分類・進行度
7.肺癌の治療
8.治療法(化学療法・放射線療法)について
"癌"という言葉は恐ろしい響きを持っています.確かに癌は恐ろしいものですが,希望がないわけではありません. 多くの人が癌で命を失っているのも事実ですが,その一方でたくさんの人が救われているのです.癌に対する治療が日々進歩するように今日も努力がたゆまなく行われています.
"癌"はいろいろなタイプの一群の病気を総称する言葉です.そして,その共通するところは正常な細胞をはるかに越えて異常に増殖をする細胞がいることです.この異常に増殖する細胞(ガン細胞)は,コントロールを失っており正常組織にも浸潤して,ついには臓器の機能を障害していきます.
実は,このようにコントロールを失って増殖するような細胞はある確率で誰の体にも生まれています.しかし,体の監視システムはそのような細胞を直ちに破壊するように出来ています.稀にこの監視システムを逃れた異常細胞が真のガン細胞となっていくのです.しかし,現実に癌になる人とならない人がいます.科学者達もなぜこのようなことが起こるのか正確に説明することはいまでに出来ません. 遺伝的な素因,環境因子,食事,タバコ,その他まだ知られていないものなど多くの因子が関わっているようです.
"肺癌"は肺において異常な細胞が制御を失って増えている状態です.しかし,この異常な細胞は体の外から入ってくるのではありません.もともと肺を形作っている細胞から変異を遂げてできてしまうものなのです.ある形態と機能を担うべく運命づけられた細胞が作り上げている肺ですが、ときにそのプログラムが壊れてしまい肺という形態、機能を作ろうとすることなく無制限に増殖を始めてしまいます。このようにして増殖する細胞は無意味な塊を形成し、肺の機能を侵していくのです。しかし、肺という臓器は大きいのでときに何年ものあいだ症状を表すことなく,ガン細胞が成長を続けることもあります。症状を表してくる場合にも,初めはしつこい咳程度であり風邪ではないかとしばしば見逃されてしまいます。
肺癌は日本においても最も多い癌になりつつあります.患者さんの半分以上が男性ですが,女性の肺癌も近年増加しています.これは女性喫煙者の増加に関係しています.実際,肺癌の患者さんの多くは喫煙者です.科学的にもタバコと肺癌に強い関連があることがすでに証明されています。しかし,タバコを吸わない人に全く癌が出来ないというわけではなく,少数ながら非喫煙者の肺癌患者が存在することも事実です.
3.肺癌の症状 肺癌はいろいろな症状を起こすことがありますが,咳はその中でもよくある症状です.ガン細胞によってできた塊が空気の通りを妨げるようになると咳が生じます.その他でよくある症状は胸部,肩,背中の痛みです.このような痛みは,体動とは関係なく持続的で,咳をしたときに強くなるような性状であることが多いようです.これ以外には,息切れ,繰り返す肺炎,気管支炎,血痰,嗄声,顔-首の腫脹などが肺癌に関係した症状として挙げられます.
4.肺癌の種類 肺癌の種類には十数種類ありますが,90%以上は小細胞性肺癌と非小細胞性肺癌に分類されます.非小細胞性肺癌はさらに腺癌,扁平上皮癌,大細胞癌の3つに分類されます.
これ以外にもカルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌などがあります.このような組織型と呼ばれる分類は,医師が顕微鏡下にガン細胞を観察し,その細胞の形や細胞同士の並び方などを評価することで行われます.組織型は,ガン細胞の発生母地となった細胞がどのようなものであったかを反映します.1)小細胞性肺癌
小細胞性肺癌は多くの場合喫煙者に生じます。小細胞性肺癌はその進行のし方、各種治療に対する反応性がそれ以外の肺癌と大きく異なることから病期の分類、治療方針が異なります。小細胞性肺癌は一般的に進行が非常に早く、患者さんが症状を示し始めて病院を訪れるときには肺に近いリンパ節を初めとして高度な転移を示していることが多く、全身的な病気として治療を行う戦略がとられます。このような困った性質を持つ小細胞性肺癌ですが、抗ガン剤や放射線療法に感受性が高く、非常に高い治療効果を期待することができます。2)非小細胞性肺癌
扁平上皮癌,腺癌,大細胞癌を総称して非小細胞性肺癌といいます.これらの癌細胞はそれぞれ好発部位や発生母地は異なっているものの,治療を行う場合によく似た振る舞いをするため一つのグループとして取り扱われることが多くなっています.非小細胞性肺癌という言葉は,治療に対する反応性がこのグループとは全く異なっている小細胞性肺癌ではないという意味で用いられています。非小細胞性肺癌は肺癌全体の75-80%を占めています.
もし肺癌が疑われた場合,一連の検査を受けることになります.これらの検査の目的の一つはガン細胞を確認し肺癌としての確定診断を得ることであり,もう一つはそのガン細胞がどの程度広がっているか、すなわち肺癌の進行度(6.肺癌の病期分類・進行度の項を参照)を知ることです.
1)喀痰細胞診
気管支,肺から喀出される痰を顕微鏡下で観察することにより癌細胞が含まれているか否か、その癌細胞がどのような組織型に含まれるものであるか知ることができます。この検査を喀痰細胞診といいます。特に喫煙者などによく発生する太い気管支の扁平上皮癌などは胸部レントゲン写真に異常陰影を生ずる前にこの検査で診断をつけることができることがあります。但し、この検査では癌がどこにあるかを知ることはできないので、気管支鏡などの検査がこの後に必要となります。2)胸部X線・胸部CT(コンピュータ断層撮影)写真
肺癌の発見には最も重要な検査です。肺野型肺癌では初期には全く自覚症状がなく、定期的な胸部X線の検査などで発見することが重要です。胸部CTは,影の特徴や発生部位を正確に診断するために必要な検査です。3)気管支鏡検査
胸部レントゲン写真やCTで肺癌を疑わせる所見があった場合、その陰影を作っている組織に癌細胞がいるかどうかを調べる必要があります。
気管支を通じて肺内の陰影に到達するためには気管支鏡を用います。口から気管に至るまでの喉頭と呼ばれる場所を、霧のようにした麻酔薬を噴霧することで麻酔したのち、柔軟性のある光ファイバーを束ねて作られた気管支鏡で肺内に入ってゆきます。
太い気管支に発生した癌の場合、気管支鏡を通じて内腔を観察しながらワイヤーで操作する鉗子を使って癌組織を一部採取してきます。しかし、気管支鏡は末梢の細い気管支まで進入することはできません。肺の末梢部位に発生した癌細胞を採取するためには、レントゲンによりその陰影を確認しながらキュレットと呼ばれるやはりワイヤーで操作することで指の先のように曲がるものを使って癌組織に到達しその一部を採取します。4)CTガイド下肺生検、胸腔鏡下肺生検
気管支鏡による診断が困難で、陰影が胸壁から比較的近い位置にある場合には、胸壁から肺内に到達する方法のよい適応になります。これには、CTガイド下肺生検,胸腔鏡下肺生検という二つの検査があります。
CTガイド下肺生検は名前の通り、通常のレントゲンではなくCTで肺内の陰影を確認しながら胸壁から針を刺して肺内の癌組織を一部採取する方法です。この方法では通常のレントゲンでは映らないような小さく淡い陰影にも到達することができます。
胸腔鏡下肺生検は、全身麻酔下に外科医師によって行われる手術です。しかし、通常の肺の手術とは異なり胸壁を切り開くのではなく、3つの穴を胸壁に作成し、一つの穴から胸腔内を見るための器具を挿入、他の二つの穴からはマジックハンドのような手術器具を挿入することで肺の一部を採取します。胸壁を切り開くことなく終了するため、手術後の回復は非常に速やかです。
6.肺癌の病期分類・進行度 病期分類とは癌細胞の広がり具合を示すもので、肺癌の進行度を現します。
この病期分類・進行度は、治療法におおいに関わってきます.病期分類を決定する因子としては,
肺癌が生まれた部位での癌細胞の広がり(T)、
近くのリンパ節への広がり(N)、
遠隔転移の有無 (M) の3つがあり,TNM分類と呼ばれています.肺癌の病期分類・進行度を決めるためには、胸部CT、腹部CT、頭部のCTまたはMRI、骨シンチグラムを行います。小細胞癌では骨髄中のガン細胞の有無を検査する骨髄穿刺も必要です。
病期分類・進行度は、大きくI期, II期, III期, IV期の4期に分かれます。I期:癌が発生部位にだけ限局し、近くのリンパ節にも及んでいないもの
II期:癌が発生部位と、最も近傍にあるリンパ節にしか及んでいないもの
III期:左右の肺に挟まれた中心部にあるリンパ節にまで及んでいるもの
IV期:遠隔転移があるもの
小細胞癌と非小細胞癌で治療法が多少異なってきます。
1)小細胞性肺癌
小細胞性肺癌は抗ガン剤や放射線治療に対する感受性が高く,治療効果の期待できる癌です.小細胞性肺癌でもTNM分類と呼ばれる病期分類をもちろん行いますが、より単純にLimited Disease(限局型)とExtensive Disease(進展型)と大きく二つに分けることも行われ、治療方針の決定に用いられています。Limited Disease(限局型)は癌細胞が片側の肺とその近傍のリンパ節のみに限局している場合を指します。これに対し、Extensive Disease(進展型)は遠隔転移があるなどこの範囲を超えている場合を指します。
Limited Disease(限局型)では抗ガン剤による化学療法と胸部への放射線療法が併用されることが基本です.
一方,Extensive Disease(進展型)では抗ガン剤による化学療法を行い,脳や骨などに癌細胞が転移している場合には局所に放射線療法を行います.手術療法は,最も近傍のリンパ節にも全く癌細胞が広がっていない場合にのみ選択されますが,この場合でも抗ガン剤による化学療法が手術前または後に行われます.しかし,小細胞性肺癌の発見時においてリンパ節へ癌細胞が拡がっていない例は非常にまれであり,小細胞性肺癌に手術療法が選択されることはほとんどありません.
以上のように小細胞性肺癌に対しては化学療法と放射線療法が基本的な治療となります.2)非小細胞癌
I期, II期では基本的に手術が選択されます.(6.肺癌の病期分類・進行度参照)
III期の中でも早期である場合は手術が選択されることもありますが,基本的には抗ガン剤による化学療法を併用した放射線療法が選択されることが多くなっています.
IV期では基本的には化学療法が選択されます.
しかし,以上の治療方針はあくまで原則的なものであり,実際にはそれぞれの患者さんの状態にあわせて,主治医と相談しながら治療方針を選択することになります.
1)化学療法
癌の化学療法とは、抗ガン剤と呼ばれる薬剤を用いた治療法です。抗ガン剤とは細胞が増えるために必要な過程の一つまたはいくつかを阻害する薬物です。これは癌細胞だけに効果があるわけではなく、全ての細胞が多かれ少なかれ影響を受けます。しかし、癌細胞は抑制のとれた状態で増殖を続けているため多くの場合正常な細胞よりも癌細胞が強く影響を受けます。
副作用
抗ガン剤による化学療法という言葉から誰しも恐れるのは副作用です。確かに抗ガン剤は種々の副作用を持っていますが、近年この副作用を抑える薬剤が長足の進歩を遂げており従来のイメージとは大分異なったものになってきています。
抗ガン剤の性質上、正常細胞の中でも活発に増殖をしているものは癌細胞と同じように強い影響を受けます。このような細胞の中で最も重要なものは血液を作っている細胞群です。白血球という身を守るための兵隊としての細胞、血小板という血液を固めるための細胞は日々活発に新旧交代をするための増殖を行っています。従って、ほとんどの抗ガン剤の共通した副作用として白血球減少、血小板減少という副作用が見られます。これらの細胞が増殖している場を骨髄と呼ぶのでこのような副作用を骨髄抑制と呼びます.しかし、近年遺伝子工学の進歩に基づいて白血球の増殖因子を薬として使用することができるようになり、白血球減少を最小限に食い止めることができるようになりました。この他、増殖をしている正常細胞の障害としては脱毛がありますが、化学療法終了後2-3ヶ月で多くの場合回復してきます。
また、有名な副作用として食欲不振があります。しかし、抗ガン剤による吐き気、食欲不振のメカニズムが解明され抗セロトニン剤と呼ばれる薬剤が使用されるようになってからは、多くの患者さんは吐き気をほとんど感じることなく化学療法を終えることができるようになりました。
以上のように抗ガン剤に伴う副作用を軽減させる治療は進んだと言えますが、いまだに白血球減少による発熱を経験したり、食事が全くとれなくなる患者さんがいることもまた事実でありさらなる研究が進められています。2)放射線療法
放射線療法はコバルト60などの放射性同位元素やリニアックと呼ばれる高エネルギーX線発生装置を用い,ガン細胞に放射線を照射することでガン細胞を死滅させようとする治療法です.余り広い範囲に放射線を照射すると正常組織にも重大な障害が生ずる可能性があるため,癌組織が存在する場所にしぼってこの治療は行われます.この照射を行う範囲を"照射野"といいます.放射線療法の効果は照射した放射線の量によりますが,一度に大量の放射線を照射するとやはり放射線性の障害が起こることが多いため数回-40回くらいに分割して行われます.
最近では,骨髄抑制などの副作用が最小限にとどまるような少量の抗ガン剤を放射線治療と併用することで治療効果が大きく高まることが知られるようになり,少量持続抗ガン剤併用の放射線療法が特にIII期の非小細胞性肺癌に行われるようになってきています.
副作用
食道炎;肺癌の放射線療法の場合,照射野に食道が入ることが多いため放射線性の食道炎が起こることがあります.症状として,軽いときは胸焼け程度ですが,稀に食事がとれなくなるほどの痛みを伴うこともあります.治療終了後には速やかに回復することがほとんどです.
皮膚炎;照射範囲の皮膚には必ず放射線性の皮膚炎が起こります.照射開始後1-2週間したのち生じ始め,赤-黒く変色しかゆみを伴います.放射線治療終了後ゆっくりと元に戻りますが,稀にケロイド状に変化することがあります.
肺臓炎;照射野の正常肺組織に放射線による障害が起こることがありますが,これを放射線性肺臓炎といいます.照射野は十分に狭く,肺は十分に大きいためこれによって肺の機能障害が起こることはほとんどありませんが,稀に照射野をこえて肺の炎症が拡がり治療が必要になることがあります.
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